【完全解説】Minecraft最大の無法地帯『2B2T』の世界史 2010~2025【保存版】
2B2Tの誕生と、FacePunch勢力による支配
2010年12月、Minecraft上に誕生した2B2Tサーバー。その特徴はただ一つ、「ルールなし」というシンプルなコンセプトでした。この無秩序な世界にプレイヤーを放り込み、時が経てばどうなるのか?――それは、まさに壮大な社会実験の始まりでした。
ハースマスターと2B2Tの設立
2B2Tサーバーは、Hausmaster
と友人である420
の2人によって設立されました。正式名称は「Two Builders Two Tools
」。Hausmasterは元々、サンドボックスゲームのGarrys Modで同盟サーバーを運営していましたが、Minecraftがマルチプレイヤー機能を公開したことを受けて、活動拠点をMinecraftに移したのです。当初は友人同士で楽しむための普通のサバイバルサーバーでしたが、Hausmasterたちはワールドを自由に創造・破壊できる環境を用意し、「放置したらどうなるか」を試すべく、サーバーを一般公開するという大胆な決断を下しました。これは、徹底した無秩序状態における一種の社会実験へと舵を切った瞬間でした。
FacePunch勢力の勃興と4chan勢力との衝突
Redditや4chanなどの掲示板での宣伝を始めた2B2Tは、最初の数ヶ月間は50人程度のプレイヤーが静かに暮らす状態でした。しかし、初期スポーン地点周辺は既に破壊し尽くされ、いたるところが穴だらけになっていたと言われています。
2011年4月、CheezHead
というユーザーがHausmasterの投稿を目にし、2B2Tに参加します。ルールが存在しないサーバーの混沌ぶりに魅力を感じた彼は、仲間を集めるため、ゲーム開発スタジオFacePunchが運営していた掲示板「FacePunchフォーラム」に募集スレッドを立てました。この呼びかけに多くのプレイヤーが共感し、数日間に100人以上のプレイヤーが2B2Tへ流入。彼らは多くの施設を備えた要塞へと発展させ、メンバーの階級制度まで整った、サーバー史上初の大規模コミュニティ「FacePunch共和国」を形成します。
しかし、FacePunch勢力の動きに反発する勢力が現れます。それが、4chan出身のプレイヤーたちです。4chan勢力は組織だったグループではなく、FacePunch勢力の支配に抵抗する、独立したプレイヤーの集合体でした。
FacePunchフォーラムへの呼びかけの翌日、LukeZab
という4chanのユーザーが別アカウントを使ってFacePunch共和国の内部に侵入。「Camp FacePunch」という拠点の破壊工作を実行します。この一件をきっかけに、FacePunch共和国vs. 4chan勢力の大規模な抗争が勃発しました。
4chan勢力はチートクライアントを用いたり、掲示板上で偵察活動を行い情報を盗み取ったりするなどして、FacePunch勢力の拠点を次々と破壊していきます。一方、FacePunch勢力は地下拠点の建設や資源収集に励む一方、複製グリッチ(無限増殖バグ)を利用して秘密裏に物資を蓄えていました。
4chan勢力がチートクライアントを平然と使う以上、FacePunch勢力も同様の手法を取らざるを得ませんでしたが、この秘密がスパイによって外部に漏洩。FacePunch勢力の正統性は揺らぎ、優位性も崩れ始めます。メンバー離脱が相次ぎ、2011年10月には創設者CheezHeadもサーバーを去ったことで、FacePunch共和国は事実上崩壊。残ったメンバーは組織維持を試みましたが、翌2012年2月には完全に解体。わずかに残ったPhagocytic
というユーザーが率いる残党は、座標X-2000, Z-2000に位置する拠点に立て籠もり最後の抵抗を試みましたが、同年6月にはこれも陥落。半年に渡るFacePunch勢力vs. 4chan勢力の抗争は、こうして終止符を打ちました。
FacePunch戦争後の混沌と、Valkyriaの台頭
FacePunch戦争終結後、サーバーの平均接続数は30人を下回るレベルまで減少し、2B2Tは中世の衰退期のような状態に陥りました。深刻なラグや約3ヶ月にも及んだサーバーダウンが重なったことで、多くのプレイヤーが2B2Tから離れていきました。皮肉にも、FacePunch勢力が目指していた静かで戦闘のない秩序ある世界が、一時的に実現したのです。
しかし、生き残ったFacePunch出身者たちは、徐々に新たな勢力を模索し始めます。その中でも注目を集めたのが、戦争終結から約1年後、2013年4月に結成されたValkyria
です。これは、古参プレイヤーの佐藤86
とPyroByte
を中心とした集団でした。
Valkyriaの活躍とAsgardの建設
旧FacePunch勢力の理念の一部を受け継いだValkyriaは、複製バグで得た莫大な資源力を武器に急成長を遂げます。その後、3度に渡ったスポーン・インカージョン(サーバー中央のスポーン地点を一時的に消滅させ、新規プレイヤーの流入を阻止する大掛かりな作戦)を主導したことでも知られています。
2013年6月に最初のインカージョンを成功させたValkyriaは、同年8月には第2次インカージョンも実施。いずれも一定期間、スポーン周辺の支配権を握ることに成功しました。同年年末には永続拠点建設にも踏み切り、迫るMinecraft 1.7アップデートに備えて巨大基地「Asgard」の建設計画を始動させます。
しかし、平和は長くは続きません。サーバー創世記から革命を起こし、数々の逸話を刻んだ伝説的な荒らし、Popbob
が突如として襲来。わずか一晩でAsgardを壊滅へと追い込む奇策を実行したのです。
Popbobの台頭とAsgard陥落
Popbobは2011年初頭、4chanで2B2Tの話題を目にし、サーバーに参加したプレイヤーでした。当初は旧FacePunch共和国の拠点で、仲間と共に静かに建築を楽しむメンバーの一人に過ぎませんでした。しかし、ある時期を境に、彼の興味の矛先は徐々に荒らし行為へと傾いていきます。
2B2T史上初バックドア事件
Popbobの荒らしとしてのキャリアが本格的に始動したのは、2011年頃。2B2T史上初めてバックドアが仕掛けられた事件がきっかけでした。バックドアとは簡単に言うと、プレイヤーがサーバー内部に不正侵入し、管理者(2B2TであればHausmaster)に知られることなく、裏側からチートを起動させる攻撃手法です。
2011年末、サーバーではネザーの特定地点からオーバーワールドへ戻ろうとすると、破壊不可能な岩盤の天井上にスポーンし、地上へ降りられなくなるというバグが発生していました。管理者のHausmasterはこの対策に追われていましたが、掲示板に現れたユーザーが修正プラグインを提供してくれたおかげで、問題はあっさり解決します。しかし、そのユーザー、正体がPopbobだったのです。
彼はプラグインに、自身と仲間であるPolysMike55
,XCC2
など数人の荒らしユーザーが管理権限でサーバーに潜入できる隠しコードを仕込んでいたのです。バグ修正という好機につけ込み、バックドアの設置に成功したPopbobは、無限に資源を生み出す能力とテレポート能力を主軸に、金、鉄、ダイヤモンドブロックで埋め尽くされた拠点「Plugin Town」を築き上げます。これが2B2T史上初のバックドア事件であり、Popbobの荒らしキャリアが本格的に動き出した瞬間でもありました。
ValkyriaとPopbobの対決と、その後の動向
時は流れ、2013年。Popbobはサーバー最大勢力Valkyriaが極秘に築いた拠点Asgardの破壊を決意します。彼が用いたのが雷の音を手掛かりにプレイヤーの座標を割り出すチート、「Thunder Hack」でした。
2B2Tでは、何か建築物を建てようとすれば、スポーン地点から何万ブロックも離れた、人目につかない座標にこっそり建設するしかありません。目立つ場所に建てれば翌日には跡形もなく破壊されてしまうからです。Asgardも例外ではなく、X254119, Z-146181という辺境にひっそりと築かれ、Valkyriaメンバーだけが知る極秘拠点のはずでした。
ところが、その場所をPopbobがピンポイントで突き止めてしまったのです。Popbobが使用したThunder Hackは、元々はAtrica
というユーザーが発見したと言われているチート手法で、Minecraftの雷の音を利用してプレイヤーの居場所を割り出すことができます。Minecraftにおいて、雷の音は最大16万ブロック先まで届き、しかも落雷はロード済みのチャンク、つまりオンラインプレイヤーが存在する地点でしか発生しないという性質があります。Thunder Hackはこの特性を逆手に取り、3つのアカウントを異なる場所にログインさせ、各アカウントで雷の方向を特定。いわゆる三角測量の要領で落雷地点の正確な座標を割り出すという奇策でした。
こうしてPopbobはAsgardの位置を暴き出し、たった一人でサーバー最大勢力Valkyriaに拠点放棄を余儀なくさせます。このAsgard陥落事件は2B2T史上の象徴的な事件として語り継がれ、Popbobの名は一躍サーバー全土に轟くこととなりました。
しかし、Popbobは、思い通りにコントロールできるチート能力に酔ってしまったのか、決して越えてはならない一線を踏み越えてしまいます。彼はThunder Hackを始め、複数のチート機能を統合したハッククライアント「N-Hack」を用い、荒らし仲間であるPolysMike55
とKimeron
の2人のユーザーのPCデスクトップ画面を盗撮。そこに映っていた個人情報を当人たちに送りつけるという事件を起こしました。これは仲間たちもPopbobから渡されたN-Hackを使っていたからこそ成し遂げた行為で、本人にしてみれば仲間内での悪ふざけのつもりだったのかもしれません。しかし、ゲームの領域を超えて個人情報にまで手を伸ばすのは完全にアウト。恐怖を感じた被害者2人は2B2Tを去り、この一件がサーバー全体に知れ渡ると、仲間からも距離を置かれたPopbobへの風当たりは一気に強まりました。結果、彼は終身追放となり、常に命を狙われる立場となりまともにプレイできなくなります。そして最終的には、物理的にもメンタル的にも居づらくなり、自ら引退を決めるという、意外にもあっけない最期を辿ることとなりました。
ラッシア戦争勃発と終結
Asgard崩壊後、Valkyriaは事実上空中分解。大半のメンバーは脱退して個別行動に移行するか、あるいは派閥としてShenandoah軍団や巨大な穴を掘ることを目標とする集団、Gweep Group
などに分裂していきました。
2014年半ばには2B2Tのラグが再発し、同時接続者数も一日平均2、30人程度にまで減少。それでも、Valkyria創設メンバーの一人PyroByteは大規模サーバー3B3T
を立ち上げ、新天地を模索しました。そして、彼は同じく創設メンバーの佐藤86と共に3B3Tを探査する過程でGweep Groupの一員と出会い、そこでNova
と呼ばれる協力組織を結成するに至ります。
このNovaで築かれた強力な関係は、2B2Tのラグ問題が解決され、全員が本サーバーに戻った後も継続。2014年11月、Novaのメンバーは佐藤86とPyroByteが事前に築いていた拠点「Fenrir」に集結しました。Fenrirは多様なプレイヤーが思い思いの建築物を建て合う拠点の集合体として知られ、長く続いた2B2Tに久々に現れた平和的なコミュニティの象徴となりました。最終的にここで生まれた連帯は、2015年3月、佐藤86が主導して呼びかけた新拠点「Asgard2」の建設へと結実します。しかし、Asgard2はPyroByteが誤って座標を漏洩させたことから翌4月には早くも壊滅。これをうけたFenrir勢を中心とする古参プレイヤーたちは、2013年8月以来となるスポーン制圧作戦「第3次インカージョン」を決行し、無秩序化するサーバーに対抗する意思を改めて示しました。
こうして2B2Tは再び平和、裏を返せば古くからのプレイヤーだけが活動できる、新規参入お断りの平和空間へと回帰し、束の間の静寂に包まれます。しかし、翌2016年6月、ある一本の動画の投稿をきっかけに、2B2Tは再び混沌の歴史へと歩みを進めることになります。
CampingRusherとラッシア戦争
2016年6月1日、2B2Tの歴史を大きく塗り替える出来事が起こります。当時チャンネル登録者90万人を超えていた人気ゲーム実況者CampingRusher
が、「Minecraft最高峰のサーバー」というタイトルで2B2Tのプレイ動画をYouTubeに投稿したのです。
ラッシア戦争の勃発と終結
動画は公開からわずか1ヶ月で180万再生を突破し、その宣伝効果は計り知れませんでした。普段は数十人規模だった2B2Tに突如千人単位の新規プレイヤーが押し寄せ、サーバーのハードウェアは悲鳴を上げます。運営は緊急策としてログイン待機用のキューシステムを実装し、定員超過時は待機列に並ぶ方式に変更。結果、常時数百人が数時間待ち、プレイ開始すらままならない状況となり、サーバー維持費確保のため、月額20ドルの有料優先キューも新設されました。課金者は列をスキップして即ログイン可能となり、以後2B2T参加には長い待機が事実上の条件となるなど、運営形態もこのタイミングで大きな転換期を迎えました。
CampingRusherの動画投稿をきっかけに流入した新規プレイヤーは、「Team Rusher」と呼ばれました。一方、古参プレイヤーは、自分の庭を観光気分で踏み荒らされる新参者を黙って見過ごすはずもなく、長年蓄えてきた資源と経験を集結して「Team Veteran」という抵抗組織を結成。6月4日にはCampingRusher自身が動画内で、古参勢の平和的な姿勢に挑むと宣言し、ついに宣戦布告。こうして勃発した古参vs.新参の全面衝突は、やがて「ラッシア戦争」と呼ばれる大規模抗争へと発展していきます。
本格的な戦闘が初めて勃発したのは宣戦布告から1週間後の6月13日でした。Team Veteran所属で2013年からサーバーに身を置いていたFitMC
というユーザーは、仲間と共にTeam Rusherの拠点に奇襲を仕掛けます。Veteran側はわずか3名、対するRusher側は40名という数的不利にもかかわらず、Fitたちは圧倒的なプレイスキルと高性能な装備でこれを撃破。大勝利を上げたFitは、その功績を称えられてTeam Veteranのリーダーに就任しました。彼はFitMCの名義でYouTubeチャンネルを運営しており、ラッシア戦争開戦後は2B2Tに関する動画を積極的に投稿。戦闘シーンのモンタージュやTeam Veteranの宣伝、拠点紹介、歴史解説動画などを次々と公開し、戦争の盛り上がりと共に名声を一気に高めていきました。
古参勢力はサーバー文化を守るべく、スポーン周辺で徹底した破壊工作も敢行。ネザーゲートや交通インフラを破壊し、要塞と拠点跡地で出入り口を封鎖してスポーンを絶望的な拠点に変えていきます。サーバーへ初めて参加してくる初心者たちは装備もないまま必要な攻撃に遭い、脱出すらままならない状況に追い込まれました。
一方で、新規参入組も黙ってやられるばかりではありません。中には過激な行動に走るプレイヤーも現れます。そもそもRusher自身は宣戦布告こそしたものの、文化そのものは壊さないでほしいとファンに既存建築物の破壊自粛を呼びかけていました。しかし一部の新参プレイヤーはその訴えを無視し、話題作りを優先して有名拠点や歴史的建造物を次々と破壊して回ります。
2016年7月15日には、古参ユーザーであるOftopia
が2012年に建設した2B2Tワールド屈指の歴史的建造物「Crystal Island」が何者かによって要塞の雨に晒されました。さらに続く7月16日には、2B2T最大聖域と呼ばれた「小麦の谷」も壊滅的な被害を受けます。小麦の谷は敷地のほぼ全てが小麦畑に覆われ、サガンやネザーラックで作られた巨大ピラミッドやスフィンクスなど古代エジプト風の建造物が点在し、場所によっては端から端まで1000ブロック以上も続く壮大な光景が広がっていました。この一大区域を築き上げたのは、他のプレイヤーとの交流をあまり好まないJeanというたった一人のユーザーでした。彼は2011年から4年もの歳月をかけてこの広大な聖域を完成させたのです。その壮大さゆえ、かのPopbobですら荒らしを控えたほどであり、小麦の谷はそれ程全プレイヤーから深い敬意を集める場所だったのです。
しかし、その聖域を攻撃するというタブーとさえ言える行為を仕出かしてしまったのは、Team Rusherの一部メンバーと、ラッシア戦争初期の混乱の最中に誕生した「レジスタンス」という組織でした。レジスタンスは2016年6月に2B2Tに参加したばかりの新参プレイヤーCorruptedUnicornが結成したチームで、Team RusherにもTeam Veteranにも属さない、第三勢力を標榜していました。新規ユーザーである上に、あっさり越えてはいけない一線を踏み越えた彼らは、だいぶ痛い連中がいるとして両陣営から激しく嫌われることになります。
こうした事態を受け、7月24日にはFitが再びスポーン地点への侵攻を宣言し、Team Veteranは激しい報復攻撃に踏み切ります。ただ、この頃になるとMinecraftバージョン1.9のアップデートで防具のダメージ軽減率が大幅に下がったため、装備差によるアドバンテージはほぼ消滅。さらにエンドクリスタル爆撃やネザーベッド爆撃といった誰でも扱える一撃必殺級の戦術が登場したことで、両陣営の戦力差は急速に縮まって行きました。
こうして戦闘は激化するものも、ラッシア戦争そのものは膠着状態のまま平行線を辿ります。開戦から2ヶ月ほどが過ぎた頃には、両陣営に終わりが見えない戦いへの疲労感が漂い始めていました。そして8月5日、この世論の流れを感じ取った代表者であるFitとRusherは協議の末、1対1の決闘で戦争に一応の区切りをつけることを決めます。舞台に選ばれたのは、フロムソフトウェアの大人気アクションRPG「Dark Souls」のフィールドを再現した「Dark Souls」地帯。戦争中にも幾度となく激戦が起きた象徴的な場所です。
両者は堂々の装備とアイテムを揃え、各陣営の意志を懸けて激突。その模様は動画でも配信され、終盤まで一歩も譲らない接戦が続きました。およそ10分に及ぶ死闘の末、勝利を収めたのはFitでした。勝敗を分けたのは、バフアイテムと金リンゴの資源管理というわずかな差に過ぎませんでした。
この劇的な決闘以後、ラッシア戦争は急速に沈静化していきます。9月にはスポーン周辺で最後の最大規模戦闘が発生しましたが、戦争の主役であるRusherがYouTubeの視聴者が2B2Tの動画に飽き始めたこと、そしてサーバーでの活動を約2ヶ月間停止したことが決定的となり、前線は事実上崩壊していきました。そして2016年10月9日、Fitが正式に終戦を宣言し、Team Veteranの勝利を発表します。ラッシア戦争は2B2T史上初めて刻まれた大戦という記録を残し、幕を閉じました。
ラッシア戦争の真相と、その後
時間を少しだけ戻し、ラッシア戦争が終わろうとしていた2016年9月頃。古参プレイヤーの一人Oftopiaが仲間達にある疑問を投げかけていました。それは遡ること2ヶ月前の戦争初期に、彼の作ったCrystal Islandが何者かによって要塞の雨にさらされた事件についてです。Oftopiaはこう指摘します。確かに存在は知られた有名な建築ではあったが、小麦の谷とは異なり、その座標を把握していたのはTeam Veteranの中でもごく一部のはずだった。Popbobが姿を消し、座標特定のエクスポイトも対策によって封じられつつあった状況で、一体誰がどうやって場所を割り出したのか?
そして彼は続けて、誰もが胸の内では感じつつも語られなかった決定的な疑念を話し始めます。実はラッシア戦争が始まる前の2016年1月、ある一人の人間をCrystal Islandに招待していた。その人物とは、我々のリーダーFitだった。そう口にしたのです。ラッシア戦争とは何だったのか?それに対するOftopiaのアンサーは、全てはFitとRusherの筋書きによる自作自演で、Crystal Islandの座標を漏洩させたのもFitだというものでした。そしてこの仮説は決して荒唐無稽とはみなされません。Oftopiaに賛同する多くの古参プレイヤーが現れたのです。
この疑念を決定的づけたのは、主導者の2人が共にYouTuberだった点です。実際、戦争を通じて両者のチャンネル登録者数は急増。特にFitに至っては、ほぼ無名状態から終戦時には10万人近くにまで伸ばしていました。つまり、ラッシア戦争は彼らのチャンネル成長のための動画ネタとして仕立て上げられ、その盛り上がりを演出するためにCrystal Islandなどモニュメントを計画的に破壊されたのではないか?そう一部の古参ユーザーは主張したわけです。しかし、当の本人たちが沈黙を貫いていたため、この疑惑の真相は長く闇に包まれました。
状況が動いたのはそれから3年後の2019年7月。Fitが動画内で「いわくの8割は事実だった」とついに口を開いたのです。加えて、裏ではRusherと密に連絡を取り合い、視聴者を呼び込むプロレスを演出していたこと、現在では私生活でも良好な関係を築いていることを認めました。もっともFitは戦争そのものはRusherの動画が偶然呼び込んだもので、当初から緻密な台本があったわけではないと弁明。また、Oftopiaが指摘したCrystal Islandの座標漏洩についても、自身の関与をきっぱりと否定しています。
ただ、意外なことにFitのこの告白、2025年現在、コミュニティからはむしろ肯定的に受け止められることが多いようです。というのも、一大イベントであるラッシア戦争があったからこそ2B2Tは広く知られ、今日までサーバーが存続できたと考えるユーザー少なくないためです。確かにラッシア戦争以降は平均人口が戦争前の5倍以上の常時2、300人レベルに増えたり、管理者達に向けたサーバー運営費の寄付が増えたりと、プロモーション的な意味で明らかにプラスの影響があったこと、それは誰の目にも明らかです。いずれにせよ、この2016年から17年の数ヶ月に渡った一連のラッシア戦争騒動は歴史の一ページとなり、終戦後の2B2Tはポストラッシアとも言える新時代へと歩みを進めていきました。
ラッシア戦争後の勢力抗争と、新たな脅威
では話を再びラッシア戦争終結後の2017年初頭に戻します。戦争が収束し、Team RusherとTeam Veteranという二大組織が解体されたことで、サーバー内には新旧のプレイヤーが入り混じり、次々と派閥や組織を結成しては勢力を争う群雄割拠の時代が到来しました。
ラッシア戦争期には既に存在していた有力勢力Vortex連合
やPeacekeepers
、そのPeacekeepersに内通して弱体化を図ろうとした敵対勢力Empyreum
、中立を掲げ秘密主義的に活動するSpawnMason
、さらには2B2Tの共産党を自称するCP2B
、そしてリーダーを神格化して崇拝するという現代迷信のカルルト集団Armored Smith Followers
などなど、バラエティ豊かな集団が無数の竹の子のように誕生し、サーバーはかつてない混沌に包まれていきます。
そしてその混乱も冷めやらぬ2018年、2B2Tは再び侵略者の試練に直面します。きっかけは登録者200万人を超える人気マイクラ系YouTuber、AntVenom氏が同年4月3日に投稿した「Minecraft無セーフサーバーの実態」という動画でした。公開されるやいなや、彼のファンが殺到するように2B2Tへ参入し、当日の待機キューは350人を超えるまでに急増。ラッシア戦争以来となる第2の大侵攻が幕を開けることになります。
AntVenom侵攻と、MrBeastの影
古参勢の脳裏によぎったのは、もちろん2年前のラッシア戦争の記憶。侵略を阻止すべく、彼らは速やかに行動を開始しました。Veteran勢の指導的立場となった佐藤86は、動画投稿の翌日には第6次スポーン侵攻の開始を宣言。呼びかけに応じたVortex連合やEmpyreumなど、彼らは一時的に敵味方の区別を超え、侵略者撃退に専念することになります。対して侵略者たちは投稿者の名前にちなんでAntsと呼ばれました。
このアリたちの侵攻を阻むため、古参連合はスポーンをぐるりと囲む巨大な拠点壁の建設に着手。加えて彼らは現れた新規プレイヤーを単に襲撃するだけでなく、捕獲して強制労働させるという、まるで現実の戦争さながらの作戦にも踏み切りました。捕らえられたユーザーはひたすら拠点石材の採掘を命じられ、命令に背けばその場で殺害されるという、まさに奴隷同然の扱いを受けたと言われています。こうした強制労働によって莫大な拠点石材が短期間で集められ、スポーンを直径2キロで取り囲むリング状の壁がわずか数週間で完成しました。
この徹底抗戦が奏功したのか、当のAntVenom本人はこの件には深く関与せず離脱。第6次スポーン侵攻も約1ヶ月後の2018年5月初頭には沈静化しました。新規プレイヤーの波も収束し、現代迷信の保護計画まで展開されたAnts侵略事件はここで幕を閉じます。この一件は外部から再び注目が集まれば2B2Tがまたたく間に戦場へ逆戻りすることを如実に示した事例であり、そしてその予感はわずか1年後再び現実となります。
MrBeastの襲来と、第10次スポーン侵攻
2019年春。一難去ってまた一難。2B2Tは再び侵入事件に見舞われます。しかも過去最大規模の攻撃です。アメリカの超人気配信者、MrBeast氏が5月25日、生配信中にサーバーへログインし、スポーンからの脱出に挑んだのです。
MrBeast侵攻と、その終結
紛れもなく世界ナンバーワンのYouTuber。そんな全世界に絶大な影響力を持つ彼が、もし本格的に2B2Tの動画化に踏み切れば、桁違いの新規プレイヤーが押し寄せるのは火を見るより明らか。最悪の場合、サーバーは古参ごと蹂躙され、MrBeastの思うがままの形に塗り替えられてしまうかもしれません。既存ユーザーにとって、彼の参入はなんとしても阻止すべき状況でした。危機感を抱いた古参プレイヤーたちはMrBeastの動画コメント欄に出向き、どうか動画を公開しないでほしいとまずシンプルに懇願します。しかし本人は「面白い企画を今計画中だ」と宣言し、その願いを軽く受け流します。一部からは彼に対し、「2B2Tの話題に乗っかっただけのミーハーだ」と揶揄する声もありましたが、実のところMrBeastのルーツは2012年の超初期に投稿していたMinecraft実況動画にあります。つまりミーハーどころか古くからの愛好者であり、彼の選択を軽々しく否定しづらい点も事態を一層ややこしくしていました。
切羽詰まった2B2T民たちは、久しぶりに宣戦布告。JoeyCoconut
というユーザーを中心として、究極の第10次侵攻が宣言され、スポーンの既存建築物や通路を徹底的に破壊し、新規プレイヤーが脱出できないよう封じ込めるというシンプルな作戦が立てられました。この呼びかけには、古参ベテランだけでなく、既存の若手プレイヤーも多数集結し、まさに総力戦の様相を呈します。ところがその矢先、思いも寄らぬ知らせが舞い込みます。実はMrBeastは企画を進めるにあたり、ラッシア戦争で名を馳せたFitMCに協力を打診していましたが、Fitが2B2Tコミュニティが抱える過激さと収束時のリスクを挙げて、これを丁重に辞退したという知らせでした。その経緯を通じてFitMCから2B2T内部の生の実情を聞かされたMrBeastは、企画が自身のメインチャンネルのブランドイメージにそぐわないと判断し、動画制作そのものの中止を決断します。これにより、新規大量流入の危機はひとまず回避され、第10次侵攻チームもカタが付いた形で幕を下ろすことになりました。
結局MrBeastによる侵略は幻に終わったわけですが、この一連の騒動は将来訪れるべき超大物YouTuber襲来に備え、古参コミュニティが危機対応をシミュレーションする貴重な機会となりました。
Nocom事件と、2B2Tの現在
2021年6月、MrBeast侵攻未遂の余波も残る中、2B2T史上最悪と言われるハッキング事件が突如として露呈します。極秘エクスポイト「Nocom」の発覚です。これはチート開発集団Nuz Inkが2018年から21年にかけて密かに使用していた不正ツールで、サーバーのあり方の根本を揺るがす、誰もが想像もしていなかった規模の脅威でした。
Nocomの脅威と、その封じ込め
Nocomの仕組み自体は極めて単純です。サーバーに対し、指定した座標にプレイヤーが読み込まれているかを問い合わせ、YesかNoかの応答を得るだけ。本来オンラインゲームのサーバーは近隣のプレイヤー同士の情報しか通信しませんが、開発者たちはサーバーのわずかな抜け穴をつき、遠隔地のチャンク読み込み情報を外部から探れるようにしていました。さらにNocomは照会した地点のブロック配置情報までも断片的に取得でき、それを機械学習と組み合わせることで遠隔からサーバー内の建築物を逐次スキャンして記録する、超次元監視まで可能でした。
Nuz InkはNocomを使い、サーバー全域のプレイヤー動向と拠点の所在位置を把握。そのログだけで総容量1.8テラバイト、約140億行にも及ぶデータベースを構築し、特定された隠し拠点は少なくとも1万5000箇所、ダッシュしたアイテムは2億個以上でした。その手口があまりにも巧妙かつ迅速だったため、被害者はなぜ襲撃されたのか検討もつかず、Nocomの正体が明らかになるまでは不穏な襲撃が起こるたびにサーバー全体で疑心暗鬼と陰謀論が渦巻いていました。
結果的にNocomは2021年半ば、Infinity Incarnation
というチームが独自に進めていた調査によって、確実な証拠の元で暴かれます。彼らは超次元チートが存在するかもしれないというコミュニティの一部で囁かれていた、にもかかわらず信じがたい噂を検証し、実際にNocomが活動していることを突き止めて公表します。続く7月下旬にはFitMCがYouTube動画でNocomの仕組みと影響を暴露し、コミュニティは騒然。運営のHausmasterも速やかに対応し、サーバーが返すチャンク情報の範囲を制限するなどのセキュリティ強化を実施。こうして誕生から3年間も発見されなかったNocomは、ついに封じ込められることになったわけです。
Nocom事件は2B2T史上最悪の不正と評され、完全無政府を標榜するこのサーバーでも、存在そのものを揺るがす脅威には立ち向かわざるを得ないという現実を改めてコミュニティに突きつけました。
2B2Tの未来
もっとも、2B2Tの歴史を振り返れば、危機のたびに停滞するどころか、その瞬間がむしろエンジンとなり、サーバーが加速度的に成長を遂げてきたことが分かります。Nocom騒動以降、近年は2B2Tには外部からの大規模な脅威は見られませんが、その分、サーバー内の社会はかつてないほど成熟しています。
現在、サーバーのマップサイズは数十テラバイト、累計参加者も既に数十万人に達し、遊ぼうと思っても常時5、600人の順番待ちが当たり前なほど人気はピークに達しています。2B2Tが刻んできた激動の歴史は、デジタル空間における無秩序と秩序の衝突を映し出す壮大な実験であり、その試みは今もなお続いています。
まとめ:ルール無き世界で紡がれる歴史
2B2Tの世界は、予測不能な出来事が連続する、まさに「無法地帯」です。しかし、その混沌の中から、プレイヤーたちの創意工夫、連携、そして抗争が生まれ、独自の文化と歴史が育まれてきました。この記事では、2010年から2025年までの2B2Tの歴史を、重要な出来事や登場人物に焦点を当てて詳細に解説しました。 このサーバーが、これからもどのような歴史を刻んでいくのか、目が離せません。
この記事は、2B2TというMinecraftサーバーの驚くべき歴史を詳細に紐解いたものです。 様々な勢力抗争や、技術的な問題、そして個性的なプレイヤーたちの活躍が織りなす、まさにドラマチックな物語を体感してください。
もしあなたがMinecraftプレイヤーであれば、2B2Tの世界に足を踏み入れてみるのも良いかもしれません。ただし、その覚悟はしっかりとしておきましょう。そこには、想像をはるかに超える混沌と、そして同時に、深い魅力が潜んでいるのです。
2B2Tは、極めて過激な環境であることを常に心に留めておいてください。 暴力的な表現や、不正行為なども含まれる可能性がありますので、閲覧には十分な注意が必要です。
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