K-POP界を揺るがす剽窃疑惑：その実態と背景

K-POPの隆盛は、世界中に多くの熱狂的なファンを生み出しました。しかし、その陰で近年急増しているのが、楽曲やコンセプト、MVにおける剽窃疑惑です。単なる類似ではなく、明確な証拠もないままに「剽窃」と断定する声も少なくなく、K-POP業界全体を揺るがす深刻な問題となっています。本稿では、近年の代表的な剽窃疑惑を検証し、その背景にある問題点を探ります。

BLACKPINKリサのソロ活動における疑惑
1. Moses氏の主張とその反論
2. 「F**k the World」をめぐる騒動
その他の剽窃疑惑：NEWJEANS、LE SSERAFIMなど
剽窃疑惑の背景：K-POPのグローバル化と商業主義
剽窃疑惑と業界の課題
未来への展望：健全な発展のために

BLACKPINKリサのソロ活動における疑惑

2024年、BLACKPINKのリサはソロデビュー曲「Rockstar」で大きな成功を収めました。しかし、その喜びも束の間、米国の音楽ビデオディレクター、Gabriel Moses氏から、Travis Scottの「Fe!n」のMVを剽窃したと非難されました。

Moses氏の主張とその反論

Moses氏は、自身のInstagramで匿名のタレコミをスクリーンショットとともに公開し、両MVの類似点を指摘。さらに2日後にはX（旧Twitter）で、リサのチームが「Fe!n」を参考にビデオ制作を依頼し、断られたにもかかわらず、同様のコンセプトで制作を進めたと主張しました。

これに対して、リサ側からの公式な反論は発表されていませんでしたが、ファンの間では、単なる類似点に過ぎず、剽窃とは言えないという意見が多数を占めました。特に、Moses氏の主張に具体的な証拠がなく、一方的な主張であるという点が批判されました。

「F**k the World」をめぐる騒動

「Rockstar」に続くシングル「F**k the World」でも、今度は新人ガールズグループXGからの剽窃疑惑が浮上しました。XGの楽曲「Woke Up」とのメロディー、コンセプト、MVのスタイルの類似性が指摘され、特にリサのMV衣装がXGのメンバー JURINの衣装と酷似しているとして、激しい議論が巻き起こりました。

これらの疑惑は、リサの才能や人気を傷つけるものでした。しかし、これらの主張には、明確な証拠に基づいたものではなく、ネット上の憶測や、一部ファンの感情的な反応に大きく影響されている側面も否めません。

その他の剽窃疑惑：NEWJEANS、LE SSERAFIMなど

リサだけではありません。多くのK-POPアイドルグループが、同様の剽窃疑惑に直面しています。

NEWJEANS「Bubble Gum」とシャーカトック

NEWJEANSのヒット曲「Bubble Gum」は、イギリスのジャズファンクバンド、シャーカトックの「Easier Said Than Done」と酷似しているとして、シャーカトックの著作権管理会社であるWISE MUSIC GROUPから法的措置が取られました。

WISE MUSIC GROUPは、「Bubble Gum」に「Easier Said Than Done」の一部が適切な承諾を得ることなく使用されている」と主張。これに対し、ADOR（NEWJEANSのレーベル）は、楽曲のオリジナル性を証明するための専門家による分析を依頼し、著作権侵害を否定しました。訴訟は、具体的な証拠提示を巡って現在も係争中となっています。

LE SSERAFIM「SMART」とタイラーの楽曲

LE SSERAFIMの「SMART」は、アフロビート風のサウンドが、西アフリカ・南アフリカのアーティストの作品と類似しているとして、剽窃疑惑が浮上しました。

HYBE傘下のグループ間の疑惑：ILEとNEWJEANS

さらに衝撃的だったのが、HYBE傘下の2つのグループ、ILEとNEWJEANSの間で起こった剽窃疑惑です。ILEのデビュー後、そのコンセプトやMV、振り付けなどがNEWJEANSと非常に類似しているとして、激しい批判が巻き起こりました。

特に、ILEの「MAGNETIC」とNEWJEANSの「Ditto」の振り付けがほぼ同一であると指摘され、大きな論争を招きました。元ADOR代表のミン・ヒジン氏は、ILEのコンセプトがNEWJEANSの成功を意図的にコピーしたものだと公に非難。この事件は、HYBE内における競争と、クリエイティブな多様性の欠如を浮き彫りにしました。裁判の結果、ILEの剽窃は認められませんでしたが、業界に大きな衝撃を与えました。

TOO USとGD&TOP「Knock Out」

HYBE傘下の新人グループTOO USの楽曲「Double Take」は、BIGBANGのGD&TOPの「Knock Out」と酷似していると指摘されました。ビート、メロディー、全体の構成に類似点が見られるとされ、ネット上では両楽曲の比較動画が拡散。一部のファンはHYBEを非難しましたが、類似性を否定する意見もありました。

剽窃疑惑の背景：K-POPのグローバル化と商業主義

これらの剽窃疑惑の増加には、いくつかの背景要因が考えられます。

K-POPのグローバル化と市場の拡大: K-POPの世界的な人気と巨大な市場規模は、海外アーティストの注目を集め、権利意識の高まりにつながっています。その結果、類似性を指摘する声が増加している可能性があります。
商業主義の浸透: 成功の方程式を模倣することで、リスクを軽減し、利益を最大化しようとする商業的な圧力も無視できません。特に、大企業であるHYBE傘下のグループ間の類似性は、この点を強く示唆しています。
インターネットとソーシャルメディアの影響: ソーシャルメディアの普及により、情報拡散速度は飛躍的に向上しました。そのため、たとえ根拠の薄い疑惑であっても、瞬く間に大規模な議論を巻き起こす可能性があります。
明確な基準の欠如: コンセプトや振り付けといった部分については、楽曲のように明確な著作権保護がないため、剽窃の線引きが難しい点が問題となっています。
ファンの過剰な反応: 一部のファンは、自分たちの好きなアーティストを守るため、過剰な反応を示し、相手アーティストを攻撃する傾向があります。これは、建設的な議論を妨げる要因となります。

剽窃疑惑と業界の課題

繰り返される剽窃疑惑は、K-POP業界に深刻な課題を突きつけています。

アーティストの創造性阻害: 過剰な剽窃疑惑は、アーティストの創作意欲や表現の自由を脅かす可能性があります。常に他者の作品との類似性を気にしながら創作活動を行うことは、大きな負担となります。
ファンコミュニティの分断: 剽窃疑惑は、ファンコミュニティを分断し、激しい対立を引き起こします。建設的な議論ではなく、誹謗中傷や炎上へと発展することも少なくありません。
業界全体の信頼失墜: 繰り返される疑惑は、業界全体の信頼性を損ないます。消費者は、アーティストや企業の倫理的な問題を懸念するようになり、K-POPへの関心を失ってしまう可能性もあります。

未来への展望：健全な発展のために

K-POP業界の健全な発展のためには、以下のような対策が求められます。

明確な著作権保護制度の確立: コンセプトや振り付けを含め、より明確な著作権保護制度を整備する必要があります。専門家の意見を取り入れ、具体的な基準を設けることで、剽窃疑惑を減らすことが期待できます。
公正な判断基準の確立: 類似性と剽窃の境界線を明確にする必要があります。専門家による客観的な分析に基づいて、公正な判断を行う仕組みが必要です。
ファンのメディアリテラシー向上: ファン自身も、情報に惑わされず、客観的な視点で判断できるメディアリテラシーを向上させる必要があります。根拠のない噂や憶測に流されず、建設的な議論に貢献することが重要です。
業界全体の倫理意識向上: 企業は、商業主義に偏ることなく、アーティストの創造性を尊重し、倫理的な活動を行う必要があります。アーティスト自身も、作品に対する責任を自覚し、オリジナリティを追求することが重要です。
国際的な協調: K-POPはグローバルな音楽ジャンルです。海外のアーティストや関係者との協力体制を強化し、国際的な基準に基づいた解決策を模索していく必要があります。

剽窃疑惑は、K-POP業界が抱える複雑な問題です。単なる類似と意図的な剽窃の区別、そして、商業主義と創造性のバランス、これら全てが議論の的となっています。今後、業界関係者、アーティスト、そしてファンが協力して、健全な発展に向けた取り組みを進めていくことが不可欠です。感情的な反応や憶測ではなく、客観的な事実と証拠に基づいた議論、そして、創造性を尊重する文化の醸成こそが、K-POPの未来を明るく照らす光となるでしょう。この問題を機に、より成熟した、創造性に満ちたK-POP業界が築かれることを期待します。そして、世界中のファンが、安心して素晴らしい音楽を楽しめる環境が実現することを願っています。これは、単なる一過性の問題ではなく、K-POPが真のグローバル・エンターテイメントとして成長していく上で、乗り越えなければならない重要な課題なのです。今後、より多くの議論と、具体的な対策が求められていくことでしょう。そして、その過程において、アーティストの権利保護と創造性の尊重、そしてファンの健全な参加意識の向上という、三つの要素がバランス良く調和していくことが理想的と言えるでしょう。これは、K-POPが抱える問題というだけでなく、グローバルな音楽業界全体が直面する課題でもあると言えるかもしれません。世界中の音楽シーンにおける著作権や知的財産権の保護、そしてクリエイターの保護という大きなテーマと直結する問題であり、K-POPの未来は、この問題への取り組み方にかかっていると言っても過言ではありません。今後、法律や制度面での整備はもちろんのこと、業界全体の意識改革、そしてファンを含めた社会全体の理解と協力が不可欠となるでしょう。 K-POPのさらなる発展のためには、この問題を真摯に受け止め、具体的な解決策を模索していく必要があります。そして、その取り組みは、単に剽窃問題の解決にとどまらず、K-POPの持続可能性、ひいてはグローバルな音楽業界全体の健全な発展に繋がるものとなるはずです。私たちは、この問題を通して、音楽業界の未来、そして創造性の未来について、改めて考える必要があります。

K-POPを蝕む剽窃疑惑：増加する告発とその背景